2018/02/06

吉行淳之介ベスト・エッセイ

 昨年は二月三日に「冬の底」と書いている。今年は五日。眠くて眠くてしかたがない。寝る時間と起きる時間がズレる。その時期を抜けると、だんだん春が近づいてくる感覚がある。

 明日というか、もう今日か。ちくま文庫から『吉行淳之介ベスト・エッセイ』が発売になります。
 二〇〇四年に編んだ『吉行淳之介エッセイ・コレクション』(全四巻)をもとに、新たなエッセイをくわえて編集した本です。解説は大竹聡さん(素晴らしい解説です!)。

 今回の再編集では、冒頭に「文学を志す」「私はなぜ書くか」の二篇を並べた。

《詩人とか作家は、やはり追い詰められ追い込まれて、そういうものになってしまうのが本筋ではあるまいか、と私はおもう。人生が仕立おろしのセビロのように、しっかり身に合う人間にとっては、文学は必要ではないし、必要でないことは、むしろ自慢してよいことだ》(文学を志す)

《この世の中に置かれた一人の人間が、周囲の理解を容易に得ることができなくて、狭い場所に追い込まれてゆき、それに蹲(うずく)まってようやく摑み取ったものをもとでにして、文学というものはつくられはじまる》(私はなぜ書くか)

 二十代のはじめから、四十代の後半の今に至るまで、何度読み返してきたかわからないエッセイだ。
「劣等感」と「自己嫌悪」に苦しんでいた若き日の吉行淳之介が、萩原朔太郎の『詩の原理』を読み、自分は詩や文学を必要とする人間だと自覚した。そのときの感動をあらわした言葉がすごくいいんですよ。

 世の中、あるいは自分にたいして何かしらの違和感(“強弱”はあれど)をおぼえ、狭い場所に追い込まれる。エッセイの中では「文学」という言葉をつかっているが、表現全般に通じることかもしれない。