2018/02/01

紀伊半島(一)

 月曜日、朝七時に家を出て新幹線で大阪に(三日くらい前から朝型生活を送っていた)。大阪は仕事の打ち合わせ。
 今回、大阪行きに合わせて、紀伊半島をぐるっと回って三重に帰るという計画を立てた。

 和歌山は、小学生のころ、家族旅行で南紀勝浦の温泉や瀞八丁(どろはっちょう)に行っている。四十七都道府県で、唯一、自分のお金で行ったことがない県が和歌山県なのである。それから四十七都道府県で一度も行ったことがない県庁所在地は和歌山市だけだ。

 三重県と和歌山県は隣同士だが、名古屋寄りの三重県民(+近鉄沿線民)にとっては和歌山は遠い(和歌山の人も三重県の北勢部は、遠く感じているのではないか)。

 翌日、三重への移動を考えると、紀伊田辺あたりに泊りたかったのだが(和歌山出身の知り合いの新聞記者からは「白浜がいいよ」とすすめられていた)、仕事の打ち合わせが何時に終わるかわからないので、事前に和歌山市内のホテルを予約した。

 打ち合わせは、夕方四時ごろに終わった。「白浜くらいまで行けた」とおもったが、しかたがない。和歌山市内も行ったことはない場所だし、(乗る機会がほとんどない)南海電鉄にも乗ってみたかった。

 どういうわけか、わたしは和歌山市駅と和歌山駅といった私鉄とJRの似たような名前の駅があるところが好きだ(先月行った、栃木県の足利駅と足利市駅もそう)。
 なんば駅から南海本線の特急サザンで和歌山市駅へ。あと昔から私鉄と在来線の特急も好きである。知らないうちに、なくなってしまうので、機会があったら乗ることにしている。
 大阪から和歌山市駅はだいたい一時間。東京と同じくらい寒い。飲み屋街がありそうなところまでホテルから歩いて二十分くらいかかることが判明(和歌山市に行くことがあったら寄りたいとおもっていたバーは月曜日が定休日だった)。翌日のことを考えると、ここは無理するべきではないという結論に至り、宿のちかくのラーメン屋で食事をすませ、コンビニで酒と焼き鳥を買って帰る。缶ウイスキー一本で飲んで熟睡した。

 翌日は宿からJR和歌山駅まで歩いて(途中、和歌山城のまわりを散策)、朝八時五十三分の紀勢本線(きのくに線)の特急くろしお1号で新宮へ。
 特急くろしおは、ずっと乗りたかった電車である。進行方向右(海側)の指定席を取る。なぜか昔から電車の窓から海を見るのが好きだ。今回の旅行では、行き帰りの新幹線以外は、本を読まないと決めていた。

 車内で駅の売店で買った鯛の押し寿司を食い、昨日買った残りの缶ウイスキーを飲む。入り江や湾がきれいだ。
 トンネルを抜けると海、トンネル、海、トンネル、海。きのくに線、素晴らしい。途中下車したい駅がたくさんある。
 次に帰省することがあったら、南紀白浜空港で白浜に行って、どこかで一泊してから、三重に帰るのもよさそうだ。あと南海フェリーで和歌山港から徳島港(もしくはその逆)にも行ってみたい。

 周参見(すさみ)駅も気になる。インターネットで調べたら、町名(村名)の由来は「海を波風が激しく吹きすさんでいたことより」とある。見老津(みろづ)駅も音で字がおもいうかばなかった。すさみ町の見老津沖に「ソビエト」という島名の無人島があることを知った。なぜ、ソビエトなのか。「島や岩がそびえたつ様子から名付けられた」という説もあるみたいだが、真相はわからない。
 旅の途中で通り過ぎてしまった場所というのは、なかなか行けないことが多い。
 そうこうするうちに、新宮駅に着いた。和歌山駅から約三時間。特急でも三時間。鈍行だと五〜六時間くらいかかる。

 生まれてはじめて紀伊半島の大きさを実感した。

(……続く)