2015/03/13

古本屋の人気作家

 町のそれほど大きくない新刊書店にはいったら、ベストセラーのコーナーと同じくらいの枠で曽野綾子のコーナーがあった。不思議におもう。謎だ。

 吉田健一著『汽車旅の酒』(中公文庫)を読む。書き出しが、自由気ままなかんじでおもしろい。

《旅行をする時は、気が付いて見たら汽車に乗っていたという風でありたいものである》(金沢)

《旅行をする時には、普通はどうでもいいようなことが大事であるらしい》(道草)

《何の用事もなしに旅に出るのが本当の旅だと前にも書いたことがあるが、折角、用事がない旅に出掛けても、結局はひどく忙しい思いをさせて何にもならなくするのが名所旧跡である》(或る田舎町の魅力)

 十代後半に古本屋めぐりをはじめたころの「古本屋の人気作家」のひとりが吉田健一だった。あと内田百閒もそうかな。ふたりとも今は新刊でけっこう読める。

 わたしはあまり読んでいないのだが、そのころ、夢野久作や稲垣足穂も「古本屋の人気作家」だった。

 この四半世紀で「古本屋の人気作家」もいろいろ移り変わっている。近年は「古本屋の人気作家」がどんどん文庫化されるという流れがある。

 著作権が切れてしまった作家は青空文庫に入ったり、電子書籍化されたりすると古書価がつきにくい。没後五十年以内で新刊書店では買えないおもしろい作家……というのは限られている。

 そういう作家を探すのも古本屋通いの愉しみなのだが、今は誰だろう。