2013/08/03

ある仕事とない仕事(四)

 わたしは就職経験がなく、学生時代にはじめたフリーライターの仕事を続けてきた。収入の大半はアルバイトだった時期のほうが長い。だから自分のやり方がうまくいったとはいえない。

 出版の仕事に関われるうちは、東京にいようと決めていたのだが、ほかの仕事で食べていかなくてはならない状況になったら、別の選択肢も考えざるをえない。

 四十歳をすぎて、これまで就職経験のない人間が会社勤めをするのはむずかしい(誰か知り合いが社長にならないかな……とよくおもう)。

 アルバイトの口はないことはないが、それも限られているだろう。自分の性格や向き不向きを考えると、自由業か自営業しかない気がしている。

 もちろん今の仕事に専念できるものならそうしたい。でも自分も業界自体もどうなるのかわからない。
 わたしは人生設計の段階で、自分ひとり暮らしていける分を稼ぐことしか考えてこなかった。

 話が重くなりそうなので、もうすこし「ない仕事」を作るということを考えてみたい。

「ない仕事」といっても、これまでにない完全にオリジナルな仕事を作るわけではない。
 そこになければ、それは「ない」のである。

 たとえば、四人くらい集まって、バンドを作ろうという話になる。とりあえず、パートは、ボーカル、ギター、ベース、ドラムということにしておこう。
 自分以外の三人がボーカルかギターをやりたいという。そういうときはベースかドラムを率先してやる。
 もちろんベースもドラムも「ある仕事」なのだけど、その場においては「ない仕事」になる。
 すでにメンバーが四人揃ったバンドがあって、そこに新加入するケースも考えてみる。
 ボーカル、ギター、ベース、ドラムはいる。だったら、キーボードとか管楽器とか、後から入る以上、ヘタでも何でもちがう楽器を担当する。もしくは一から自分でメンバーを集めて新しいバンドを作る。

 町の中に店を出すときに、その町にすでにラーメン屋の名店がひしめいているとしたら、別の町を探すか、ラーメン屋以外に店を作るというような発想である。

「ある仕事」で大勢の人と競争するより「ない仕事」を探す。

 仮に自分にできること、何かしらの技術があるとすれば、そのできることや技術が重宝される場所はどこかということをを考える。

 たぶん「ある仕事」をする場合にもこうした〈感覚〉は応用がきくかもしれない。

(……もうすこし続く)