2012/03/05

本と酒 その二

……古い日記を見ていたら、パソコンを買ったのが一九九八年の一月、Theピーズのホームページを見たのは同年四月二十九日であることがわかった。

 すっかり忘れていたのだが、五月には高円寺のショーボートでペリカンオーバードライブのライブを見ている。このときは打ち上げに参加せず、ライブのあとひとりで飲んだ。

 この年の秋、学生寮の二階丸ごと借りる。
 駅から徒歩三分、四畳半三部屋と台所と風呂とトイレと物干し台が付いて七万円という破格の安さだった。ただし、当時のわたしの収入は十五万円前後だったから、借りるかどうか迷っていた。家賃は収入の三分の一以下でなければいけないとおもっていた。

 物件を見つけた友人は、「おもしろい部屋だから借りろ」と強くすすめた。さらに「家賃が上がったら、その分、仕事しようって気になるよ」ともいった。

 その言葉を信じてみることにした。

 当時は、遊んでばかりいた気もするが、落ち込んでいる時間も長かった。

 単発の仕事ばかりで定収入がない。定収入がないから生活が安定しない。体調も崩しやすい。
 自分のやっている仕事が将来につながる気がしない。

 決まった仕事がないから生活が荒むのか。生活が荒んでいるから決まった仕事が入らないのか。

 レギュラーの仕事が入ると、それなりに健康管理もするようになる。連日、酒を飲んだり徹夜したりしていたら身がもたない。

 二十代後半、本を売って酒を飲む生活が続いた。それはそれで、いい経験になった……とはあまりおもっていない。そうならないほうがいいに決まっている。
 ただし、不安定で不規則な境遇に陥ったおかげで、今まで知らなかった世界を知ることができた。

 朝まで飲める店、朝から飲める店、昼まで飲める店、昼から飲める店。

 そういう店に出入りしている人々。

 当時、高円寺に引っ越して八年目くらいで、多少はおもしろい飲み屋を知っているつもりだったが、自分の知っている世界の狭さと浅さを痛感した。

 迷惑をかけたりかけられたり、ケンカしたり仲直りしたり、そういう人間関係を二十代後半になるまでほとんど経験してこなかった。
 どちらかといえば、そういう関係は面倒くさいとおもっていた。
 そんなひまがあったら、古本屋をまわって、ひたすら本を読んでいたかった。

(……続く)