2007/06/05

自然でもなく、必要でもない欲望

 仕事の原稿を書き上げて寝ようとしたら、眠れなくなったので、なんかちょっと書いてみようとおもう。
 おそらく今日もまたとくに予定のない日にありがちなことをするだろう。つまり部屋を掃除して、洗濯して、食料品を買い物して、古本屋をまわって、喫茶店で本を読んで、酒を飲んで、家に帰ることになるだろう。

 あんまりものは持ちたくないが、知らず知らずのうちにものが増えてゆく。

 学生時代、「現代のソクラテス」といわれたアン・リネル(1861-1938)に関する本の中に、彼の部屋の壁は床から天井まで本にうめつくされていたが、そこには「不必要な必要物」は何もなかったというようなことが書いてあるのを読んだ。
 アン・リネルの部屋には敷物がなく、着ているものも百貨店の「つるし」で売っているような質素な服だったという。
 当時は文学よりも、哲学や思想の本ばかり読んでいた。古典だけ読んでいればいいんじゃないか、そんなふうにおもっていた。今でもたまに頭がごちゃごちゃしてくるとそうおもう。

(……以下、『活字と自活』本の雑誌社所収)