2006/09/06

針がふれる

 スポーツでも芸事でも、はじめのうちは上達が早い。しかしそのうちいくら努力しても練習してもなかなか伸びなくなる。
 一〇〇メートル二〇秒で走っている人がタイムを一秒ちぢめるのと、一〇秒台で走っている人が〇・一秒ちぢめるのとでは、難易度がちがう。でも練習しないとからだがなまる。タイムが伸びなくても毎日走る。
 読書もそうかもしれない。なにも知らないときは、次から次へと読みたい本、好きな作家が見つかるが、いずれは壁にぶちあたる。壁にぶちあたると、またちがう作家、ちがったジャンルに手を出す。そんなことのくりかえしだ。そんなことをくりかえしているうちに、古本屋の棚を見ても、心の針がまったくふれなくなる時期がくる。

(……以下、『古本暮らし』所収)